第25回 セオリーレッスン 家具8
トレンドの大きな流れと、その流れを汲みとり家具とその周囲のセッティングに投影したデザインのお話をしてきました。いわば世の中のうつろいを映す家具がテーマでした。
これに対して、アンティーク家具はいわば価値が定まった家具です。
どのような空間の中でもアンティークとしてのエネルギーとポジションを持ち続けその評価を高め続けます。
今回は、そのアンティーク家具について、なぜ人々はアンティークにひかれ続けるのか、英国のアンティークマーケットはどのようになっているのか、そしてアンティーク家具やアクセサリをどのように取り入れていっていいのか、などをお話ししてみたいと思います。
●アンティークの価値 なぜアンティークは人々を引き付けるのか
ロンドンで友人や知人宅を訪ねると(私の友人知人ですから年齢もそれなりの人が多いですが)、ほとんどの家でアンティークがあります。それも代々受け継いだ筋金入りのもの。あるいはしかるべき場所で、しかるべきディーラーから購入したものです。
必ずそれらは家の一番いい場所、あるいは目立つ所で鎮座しています。一番多く見かけるのは、エントランスホールあるいはリビングルームで、きちんと目が行く場所に、絵やミラー、そしてアクセサリ(写真立てやアンティーク小物)などできちんとセッティングがなされてコーナーを作っているのです。
これは見てほしい家具です。そしてコメントしてほしい家具です。聞かれれば、その家具の歴史、家具にまつわる家族のストーリーが泉のように湧いてきます。
逆に、この家具を素早く見つけられず、コメントをしないということは、その人のインテリアに対する無関心と無知を露呈し、また失礼なことにも当たります。英国人は、こういった話が出てきたときにお互いちゃんとやり取りができるほど、アンティークに関する知識が一般的に豊富です。
また、アンティークの家具を入れているからインテリア全体がトラディショナルなものかというと、逆にそうではなくモダンを基本にしている家庭が多いのです。
アンティークはあくまでインテリアの重要なアクセントとして扱われています。子供のころからこのようなミックスマッチに慣れているからでしょうか。その新旧の混ぜ合わせ方が、何ともうまいのです。
アンティーク家具のすごさは、何といってもその存在感と力強さでしょう。存在を主張するだけの力強さではなく、どのような時代や地方のエレメントとも合わせられる力強さです。
だからこそ、輝いているのに他の家具の邪魔をしない。空間の中で変に突出することがない。
これはアンティーク家具でしかなしえないマジックだと思います。さらにこれは家具に限った事ではなく、照明、アクセサリ、ミラーなど、すべてに共通です。本物のアンティークが一つ入ってきただけで、空間の格を上げ、デザインを引き締める力があるのです。また、不思議とさまざまな時代のアンティークを混在させることも可能です。
このようなアンティークの力を理解しているからこそ、英国ではアンティークはだれもが「持たなければならない」と感じているアイテムとなるのです。
●アンティーク好き
イギリス人のアンティーク好きは生活のさまざまなところで見ることができます。
例えばテレビ。お昼の時間帯、日本ですとバラエティ番組か昼ドラが人気ですが、英国では何といってもアンティーク。以下の番組は毎日何本も続けて放送されます。
- なんでも鑑定団出張編のように、地方に専門家が出掛けて行って、会場にその日持ち込まれた何百というアンティークを次々と鑑定していき、その地方のヒストリカルハウスのアンティークも紹介し、さらに鑑定したアンティークを地元のアンティークオークションで売る「アンティークロードショー」
- プロが依頼者宅の屋根裏部屋から地下室まで徹底的にアンティークを探し出し、それをオークションで売って、依頼者の望み、例えばクルーズに行きたい、家の改装をしたい、などの望みをかなえる「キャッシュインザアティック」
- 赤と青、それぞれ2人ずつのチームに300ポンドずつを渡し、蚤の市やカーブーツセール(青空市)で仕入れた商品を、正式なオークションハウスに持ち込み、オークションで売れた金額の高さを競う「バーゲンハント」
アンティークロードショーの30年を始め、すべて人気長寿番組です。
さらに、毎年英国中から修復が必要な建物を30(毎週4つずつ)紹介し、その中から勝ち残った建物について、全国的な人気投票を行い、上位の建築物には宝くじ基金などを使って、本当に修復を行ってしまう、「リストレーション」は、もはや国家的プロジェクトの域に達しています。これらの建築に関する歴史や建築技術、人々の暮らしや関わり、地域や英国にとっての価値が紹介され、本当に見ているだけで、人々の歴史建築にかける情熱の高さで、胸が熱くなる思いがします。
また、いわゆるアンティークマーケット、オークション、ショップ、エキシビションの比率は、日本のそれの数十倍にもなるのではないでしょうか。
ロンドンのマーケットで有名なのは、ポートベロー、エンジェル、カムデンなどですが、このほかにもローカル対象の数多くのマーケットがあります。
週末ごとにあちこちで開かれるカーブーツセールやチャーチセールも狙い目ですし、アンティークの小さなショップが集まったアーケード(アンティークケーブ)もハムステッドやキングスロードはじめあちこちにあります。
サザビーズやクリスティーズだけがアンティークオークションではありません。実は各市に一つずつくらいの割合で、オークションは存在し、一般人も含めて活発な取引が行われています。
コッツウォルズや湖畔地方の一大観光地ではお土産屋さんと同じくらいの数のアンティークショップがありますね。
アンティークショップといえば、私のお気に入りは、インテリアの街、フルハムロードやキングスロード、そしてケンジントンチャーチストリート、ピムリコロードに立ち並ぶアンティークショップたち。そしてモノポリーゲームでも一番高いメイフェアの街に点在する超超高級アンティークショップ。プロのデザイナーとしては、このあたりは目の保養と勉強のために通うようにしています。
エキシビション会場でのアンティークショーもロンドンだけで年間10以上催されます。有名なのはグロブナーホテルのアンティークフェア。世界中からお金持ちが集まります。
特に上記ロンドンアンティークショップとアンティークショーは、実はインテリアトレンドの先駆けやヒントを見ることができるので、大変興味深いです。
アンティークでトレンド?と不思議に思われるかもしれませんが、アンティークでもトレンドはかなり顕著です。特に先ごろ行われたパリのメゾンオブジェ(http://www.maison-objet.com/flash/leaflet_essential_j10/jap/)と、ロンドンのバタシーアンティークフェア(http://www.decorativefair.com/index.html)でのトレンドのリンクは大変興味深いものがありました。この流れはおそらく、今年4月の世界最大のデザインショー、ミラノサローネ(http://www.milanosalone.jp/fiera/)でも強く表れてくるように思われ、ぜひ注目したいところです。
クレジットクランチ(世界同時不況)に見舞われた今だからこそ、人々が確かなものを追い求めるのかもしれないと思わせる、またそう判断するに足るテーマが今ヨーロッパを席巻しています。またいずれこれについては回を別にしてお話ししてみたいと思います。
●フランスだってベルギーだって負けない
ヨーロッパ各国それぞれに、インテリアの歴史が違い、スタイルが異なるように、アンティークにおいても各国の特徴があるのです。
好きなインテリアの源流がどこかを探り、その国に出かけることがあったら、お土産屋さんよりもアンティークショップでご自分自身のお土産を見つけてみるのもいいかもしれません。アンティークの素敵なところは、一つ一つに歴史と物語が詰まっていること、そしてそれを買う時のお店の人とのやり取りもストーリーに加わることです。
私は旅行に出ると、できるだけその土地のアンティークショップに立ち寄り、自分のお土産はそこで求めるようにしています。
私のキルトが趣味の友人は、行った先々で必ずアンティークの指ぬきを集めたりしていますが、好きなものを重点的にさまざまな土地で求めていくのは楽しいものです。
ツアーでも人気のフランスやイタリアにも、土地のインテリアの歴史を映す魅力的なアンティークマーケットがあります。例えばパリのクリニヨンクール骨董市場、プロバンスにはフランス最大のアンティーク集積地、リールスールラソルグがあり、直径500メートル弱の小さな町に1000件ものアンティークショップがひしめくさまは圧巻です。かわいらしいベルギーのブルージュの運河沿いのアンティークショップもベルギーならではの手工芸の一品が手に入りますし、イタリアミラノでもナヴィリオ運河沿いのアンティーク市も有名です。これらは週末だけの開催のところも多いのですが、時間が合えば、ほかのどこでも手に入らない最高のお土産に出会えるかもしれません。
●アンティークって何?
アンティーク家具といわれて出回っているものは日本でも近年大変に多くなっています。
しかし厳密にはアンティークと呼べるものは、100年以上前に作られた家具や手工芸品で、その当時の技術やデザインを反映し、価値の高いものを指します。これはWTOでも定められ、関税もそれによって判断されます。
これより新しいが価値のあるものは、ヴィンテージ、価値の低いものは、ジャンクなどと呼ばれます。
ですからたとえスタイルとして定まっているアールデコ時代の製品であっても、ヴィンテージとは呼べますが、アンティークという表記は正しくないことになります。
また、アンティークの修復についてですが、傷や汚れなどはつないだり補修することはしても、新しい素材で傷や修復痕覆ってしまったり、汚れを必要以上に落としてしまうのは、アンティークそのものの価値を著しく下げてしまいます。
こちらのアンティークディーラーの話では、アンティークを購入した後で、汚れているとか修理の跡が見える、といってクレイムをよこすのは、日本人とアメリカ人ばかりだそうです。アンティークの本当の価値を理解せずに購入するのは残念なことです。
また、ある時代の技術や様式を忠実に再現して新しい家具やアクセサリを製作することをリプロダクション、あるアンティークの傷も含めてそのまま忠実にコピーし製作したものをレプリカ、と呼びます。いずれも製作に技術と手間暇がかかるため、大変高価なものが多くなります。
●古くないなら古くしちゃう
英国の人々は古いものが大好きです。住んでいる建物自体が数百年単位の古いものがほとんどですから、確かに古いもの、つまり使い込んだものは良く雰囲気に溶け込みます。そこで新しいものでも、あえて古く使い込んだように加工する技術が発達したのです。
この技術をエイジング加工といいます。私自身もデコラティブペイントを1年勉強した中で、このエイジングの技術を学びました。いくつかご紹介しましょう。
- 木そのものの表面を使い込んだように凹凸をつけるため、例えば、かんなでかなりがたがたに削り、やすりでならし、さらにブラシタイプの鉄やすりでゴリゴリ傷をつける。さらに自然な使用感が出るように、釘の束や鍵の束を紐にいくつもつけたものを天板などにバンバン打ちつけて傷を作る。
- 木の虫食いの表情を出すために、釘と金づちでランダムに穴をたくさんあけ、その上にこげ茶の油絵具を擦り込み、あたかも古い虫食いの穴がたくさんあいているように見せる。
- ペンキを塗った後、ブラシタイプの鉄やすりでペンキをランダムに落とし、角には念入りに紙やすりをかけ、最後には茶色の絵具を溶いた水を含ませた布で、磨き上げる。あるいはパティナと呼ばれ塗るとかすかに茶色くなる溶剤を、濃淡をつけながらコーティングする。
それにしても新品の家具を傷つけるなど、何と悩ましいことでしょう。
でもやっぱり新しいつるつるのものよりはずっといい雰囲気になるので、私もいままで自宅の家具やアクセサリには、ずいぶんこの加工を行いました。
家具職人さんに見られたら、怒られそうです。でも私自身はこうして慣らした物たち、とても気に入っています。
●私のアンティーク
さて、古いものをインテリアに取り入れるために、どこからスタートしたらいいのでしょう。
アンティークはとても高価なものですから、ヴィンテージ、リプロダクションやDIYでスタートしてもいいと思います。アクセサリーであればより手に入れやすいですね。
むしろいきなり高いところから行くよりも、少し助走期間があってもいいかもしれません。
いずれにしても歴史のあるものを一つ手に入れると、さまざまなことを知りたくなります。愛着が生まれます。
インテリアは実は大変高度な技術ですから、数年ではなかなか見えてこないこともあります。
アンティークが熟成するように、インテリアの眼が育つには、5年から10年の経験が最低必要です。10年後に、今よりいいものや好きなものに囲まれて気持ちのいい暮らしをするために、一つの本当に古いもの、あるいは古く見せる加工を自分で行ったもの、からスタートすればいいのではないでしょうか。妙に安い偽物アンティークを買うよりは、ずっと心豊かにいられると思います。
もしあなたがラッキーで、いきなりアンティーク家具を買えたとしたら、あなたの所にたどりつく以前のオーナーたちがおそらくしてきたように、次の世代に伝えることができるよう、大切に扱ってください。
そしてその大切な家具の周囲にも気をかけて、その家具を中心としたセッティングを作ってみてください。そして季節やトレンドの中で、さまざまなスタイルを表現する実験の場にしてもいいと思います。
私自身、もっと若い時ですが、ある家具に惚れ込み、そのレプリカ家具を買うために、3年間頑張ってへそくりをしました。その子はそれからずっと私と一緒です。いろんなアクセサリとともに変身してきましたが、今は娘の部屋でキッチュな60‘sの顔をしています。
●アンティークのある風景
それでは昨年10月に来日したBIDAメンバーの作品を中心に、アンティークのあるインテリアをいくつかご紹介してまいりましょう。

以前にもご紹介したPhilippa Thorp のデザインから。玄関のアンティークとモダンアートの組み合わせが秀逸。

同じくPhilippaのデザイン。奥のフレンチキャビネットとミックスマッチの家具が、モダンながら何とも言えない深い表情を醸し出している。

トラディショナルなプロポーションを持った空間をモダンにシンプルにフィニッシュし、そこにトラディショナルな椅子とアンティークやエスニックの家具を合わせたバランス感覚がクレバー。Lawson Robbの作品。

こちらもトラディショナル、デコ、カントリーなど、さまざまなフレーバーの椅子を奥のアンティークのチェストが引き締めている。Odile Granterの作品。

Guy OliverによるConnaught Hotel客室デザイン。アンティークのヘッドボードがこの空間の圧倒的なクオリティ感を作り上げている。

和の漆箱も全く違うエレメントの中で存在感を放っている。(澤山乃莉子)
アンティークとモダンのミックスは、大変に面白いテーマです。
かなりテクニックが必要な難しいものではありますが、英国のマーケットでもインテリアデザイナーの間でも、挑戦したいテーマとしてますます人気が高まっています。
そしてアンティーク、あるいはビンテージは今後のインテリアトレンドに大きな意味合いを持ってくるキーワードになるのではないかと推察しています。
たくさんのことを教えてくれるアンティーク。
またいずれ新しい情報をお伝えできればと思っています。

![澤山乃莉子デザインのドマーニコレクション蓮夕[Len-yu]](images/len-yu.gif)




